宇宙基本計画 (令和5年6月13日閣議決定) では、日本の火星本星探査は次のように位置付けられています: 「火星本星の探査については、米国と中国による大規模な計画が先行する中、将来の有人探査に向けて、2030年代には国際的な役割分担の議論が開始される可能性があるため、2040年代までの長期的視点を持って、我が国が有利なポジションを得るために、産学のリソースを最大限に活用して、米中を始め他国が有していない我が国の独創的・先鋭的な着陸技術・要素技術等の発展・実証を目指すとともに、火星本星の探査に関する検討を行う。」
火星本星探査の大きな科学的目的は、火星表面における水や物質循環を理解し、現在あるいは過去に生命の存在の兆候があったかどうかを明らかにすることです。現在でも高緯度地域では液体の塩水が表面近くに存在する可能性が指摘されており、将来の国際的な有人火星探査にとっても重要な知見となります。
こうした着陸探査を実現するうえで鍵となるのが、火星への安全な着陸技術です。火星は大気が非常に薄いため、高速で突入する探査機を十分に減速させることが難しく、「大気突入・減速・着陸 (EDL)」の技術が不可欠です。
その中でも注目されているのが「インフレータブルエアロシェル技術」です。これは傘のように展開する構造によって大きな空気抵抗を生み出し、高温環境に耐えながら効率よく減速する技術で、次世代の着陸システムとして期待されています。JAXA宇宙科学研究所や東京大学などが中心となって研究開発を進めており、この分野で世界をリードしています。
初号機では、火星の複数地点に数kg規模の観測装置を着陸させることを目指しており、将来的にはより大型の観測機器へと発展させていく計画です。これまでに風洞実験に加え、大気球、観測ロケットを活用した飛行試験や国際宇宙ステーション (ISS) から放出される超小型衛星による技術実証試験にも成功しており、火星ミッションへの適用が視野に入ってきています。
現在は、宇宙戦略基金を活用して、火星ミッションへの搭載を目標とした超小型火星着陸機の開発や、そこへ向けた事前の宇宙実証にに向けた取り組みが着実に進められています。
先日、さがみはら産業創造センターにある次世代宇宙システム技術研究組合 (NeSTRA) を訪問し、JAXA の基金担当者と NeSTRA の開発担当者から展開型エアロシェルの開発状況の説明を受けるとともに、試作モデルを視察しました。
開発は順調に進んでおり、JAXA の軌道間輸送機により火星軌道まで運ばれたインフレータブルエアロシェルが、観測機器を火星表面へと届ける日も遠くないことを感じさせる訪問となりました。
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写真: 試作中の展開型エアロシェルを前に。加持勇介 次世代宇宙システム技術研究組合 理事 (左)、山田和彦 宇宙科学研究所 宇宙飛翔工学研究系 准教授 (右)。山田先生は、宇宙戦略基金「大気突入・空力減速に係る低コスト要素技術」の担当F/E (Facilitate Engineer) を、加持さんは同基金のプロジェクト補佐を務めておられます。
