2025年3月28日、重力波望遠鏡ネットワーク (LIGO・Virgo・KAGRA) が重力波イベント S250328ae を検出しました (GCN 39898)。このイベントは、天球上での到来方向が約25平方度 (90%存在確率) という比較的高い精度で決定されました。重力波の波形から、ブラックホール同士の合体により放射された重力波であると考えられ、そのような合体現象が電磁波を放射するかどうか、放射する場合は起源の特定が追観測により期待される事例でした。
私たちの研究チーム (The Japanese Collaboration for Gravitational-Wave Electro-Magnetic Follow-up; J-GEM) は、すばる望遠鏡に新しく搭載された多天体分光装置 Prime Focus Spectrograph (PFS) を用いて、S250328ae の到来方向に位置する近傍の銀河や、他望遠鏡によって発見された突発天体に対する分光観測を実施しました。観測した突発天体の多くは、南米チリにある 4m望遠鏡CTIOの広視野カメラDECamを用いて研究を進める DESGW (Dark Energy Survey Gravitational Wave) チームとの共同研究により提供されたものでした。また、この観測は、2025年3月のPFSの運用開始後の最初の観測ランにおいて行われた、PFSを用いた初のToO (Target-of-Opportunity) 観測(*)となりました。
PFSは、1.3平方度の広い視野をカバーし、約2400本の光ファイバーで同時に多数の天体のスペクトルを取得できる、世界有数の多天体分光装置です(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構による2025年1月のプレスリリース参照)。広範囲にわたる多数の候補天体を一度に観測できるこの特長は、重力波イベントのように空間的な位置情報が限定的な天体現象に対する追観測において、極めて強力な手段となります。
本観測では、到来方向領域内に存在する、重力波を放射した可能性のある天体現象 (突発天体) ないしその母銀河の可能性がある合計約3,900もの天体に対し分光観測を行い、可視光から近赤外線にわたるスペクトル (波長380 nm-1,260 nm) を取得しました。即時解析により得られたデータを吟味し、赤方偏移やスペクトル型などの決定を行い、本研究チームの Haibin Zhang 氏 (国立天文台) を筆頭著者として General Coordinates Network (GCN) Circular No.40221 にて観測の即時報告を行いました。本研究センターの諸隈智貴主席研究員も、現地での観測実施に貢献しました。
(*)Target-of-Opportunity (ToO) 観測: 突発的に発生した天体現象のデータを取得するため、それまでに予定されていた観測スケジュールに割り込んで実施される臨時の観測のこと。